すつかり癒《なお》つて二月のはじめ頃から湯河原へ転地してゐるので、学校の試験休みのあひだに一度お見舞に行きたいと、継子さんはかね/″\云つてゐたのですが、いよ/\明後日の日曜日に、それを実行することになつて、ふだんから仲の好いわたくしを誘つて下すつたといふわけでございます。とても日帰りといふ訳には行きませんので、先方に二晩泊つて、火曜日の朝帰つて来るといふことでしたが、修学旅行以外には滅多《めった》に外泊したことの無いわたくしですから、兎《と》もかくも両親に相談した上で御返事をすることにして、その日は継子さんに別れました。
 それから両親に相談いたしますと、おまへが行きたければ行つても好いと、親達もこゝろよく承知してくれました。わたくしは例のお転婆《てんば》でございますから、大よろこびで直《すぐ》に行くことにきめまして、継子さんとも改めて打合せた上で、日曜日の午前の汽車で、新橋を発《た》ちました。御承知の通り、その頃はまだ東京駅はございませんでした。継子さんは熱海《あたみ》へも湯河原へも旅行した経験があるので、わたくしは唯《ただ》おとなしくお供をして行けば好いのでした。
 お供と云つて
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