く見えたので、その人はひそかに訝《いぶか》って、あんな婆さんが美少年と媾曳《あいびき》をしているのかと思いながら、だんだんにその傍へ近寄ってゆくと、かれらのすがたは消えてしまった。
 次の日に、これは何人《なんびと》の墓であるかと訊《き》いてみると、某家の男が早死にをして、その妻は節を守ること五十余年、老死した後にここに合葬したのであることが判った。

   木偶の演戯

 わたしの先祖の光禄公《こうろくこう》は康煕《こうき》年間、崔荘《さいそう》で質庫《しちぐら》を開いていた。沈伯玉《ちんはくぎょく》という男が番頭役の司事を勤めていた。
 あるとき傀儡師《かいらいし》が二箱に入れた木彫りの人形を質入れに来た。人形の高さは一尺あまりで、すこぶる精巧に作られていたが、期限を越えてもつぐなわず、とうとう質流れになってしまった。ほかに売る先もないので、廃《すた》り物として空き屋のなかに久しく押し込んで置くと、月の明るい夜にその人形が幾つも現われて、あるいは踊り、あるいは舞い、さながら演劇《しばい》のような姿を見せた。耳を傾けると、何かの曲を唱えているようでもあった。
 沈は気丈の男であるので
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