よろしい。その怪物が出て来たらば、この鉄砲で防ぎます」
書斎は三間になっているので、彼はその東の室《へや》で寝ることにした。燈火《ともしび》にむかって独りで坐っていると、西の室から何者か現われて立った。その五体は人の如くであるが、その顔が頗る不思議で、眼と眉とのあいだは二寸ぐらいも距《はな》れているにも拘らず、鼻と口とはほとんど一つに付いているばかりか、その位置も妙に曲がっていた。顔の輪郭もまたゆがんでいる。よく見ると、不思議というよりも頗る滑稽な顔ではあるが、なにしろ一種の怪物には相違ないと見て、劉はすぐに鉄砲をとって窺うと、かれは慌てて室内へ退いて、扉のあいだから半面を出して窺っているのである。
劉が鉄砲をおろすと、彼はそろそろ出かかる。劉がふたたび鉄砲をむけると、彼はまた隠れる。そんなことを幾たびも繰り返しているうちに、彼はたちまち顔の全面をあらわして、舌を吐き、手を振って、劉を嘲《あざけ》るかのようにも見えたので、急に一発を射撃すると、弾《たま》は扉にあたって怪物の姿は隠れた。
劉は窓格子のあいだに鉄砲を伏せて、再びその現われるのを待っていると、彼はふたたび出て来て弾にあ
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