なわち仏経にいわゆる邪魔外道《じゃまげどう》である。けだし、そのたぐいであろう。

   滴血

 晋《しん》の人でその資産を弟に托《たく》して、久しく他郷《たきょう》に出商いをしている者があった。旅さきで妻を娶《めと》って一人の子を儲けたが、十年あまりの後に妻が病死したので、その子を連れて故郷へ帰って来た。
 兄が子を連れて帰った以上、弟はその資産をその子に譲り渡さなければならないので、その子は兄の実子でなく、旅さきの妻が他人の種を宿して生んだものであるから、異姓の子に資産を譲ることは出来ないと主張した。それが一種の口実《こうじつ》であることは大抵想像されているものの、何分にも旅さきの事といい、その妻ももう此の世にはいないので、事実の真偽を確かめるのがむずかしく、たがいに捫着《もんちゃく》をかさねた末に、官へ訴えて出ることになった。
 官の力で調査したらば、弟の申し立てが嘘か本当かを知ることが出来たかも知れないが、役人らはいたずらに古法を守って、滴血《てきけつ》をおこなうことにした。兄の血と、その子の血とを一つ器《うつわ》にそそぎ入れて、それが一つに融け合うかどうかを試したのである。
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