した時、四方を巡回して南山の深いところへ分け入ると、日もようやく暮れかかって来た。見ると、渓《たに》を隔てた向う岸に人の影がある。もしや瑪哈沁《ひょうはしん》(この地方でいう追剥《おいは》ぎである)ではないかと疑って、草むらに身をひそめて窺うと、一人の軍装をした男が磐石の上に坐って、そのそばには相貌|獰悪《どうあく》の従卒が数人控えている。なにか言っているらしいが、遠いのでよく聴き取れない。
やがて一人の従卒に指図して、石の洞《ほら》から六人の女をひき出して来た。女はみな色の白い、美しい者ばかりで、身にはいろいろの色彩《いろどり》のある美服を着けていたが、いずれも後ろ手にくくり上げられて恐るおそるに頭《かしら》を垂れてひざまずくと、石上の男はかれらを一人ずつ自分の前に召し出して、下衣《したぎ》を剥《ぬ》がせて地にひき伏せ、鞭《むち》をあげて打ち据えるのである。打てば血が流れ、その哀号《あいごう》の声はあたりの森に木谺《こだま》して、凄惨実に譬《たと》えようもなかった。
その折檻が終ると、男は従卒と共にどこへか立ち去った。女どもはそれを見送り果てて、いずれも泣く泣く元の洞へ帰って行っ
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