て死んだ。何分にも本人自身の書置きがあって、豪家の無罪は証明されているのであるから、役人たちもどうすることも出来ないで、この一件は無事に落着《らくぢゃく》した。
張の死んだ後、豪家も最初は約束を守っていたが、だんだんにそれを怠るようになったので、張の老母は怨み憤って官に訴えたが、張が自筆の生き証拠がある以上、今更この事件の審議をくつがえす事は出来なかった。
しかもその豪家の主人は、ある夜、酒に酔ってかの川べりを通ると、馬がにわかに駭《おどろ》いたために川のなかへ転げ落ちて、あたかも張とおなじ場所で死んだ。
知る者はみな張に背いた報いであると言った。世の訴訟事件には往々《おうおう》こうした秘密がある。獄を断ずる者は深く考えなければならない。
飛天夜叉
烏魯木斉《ウロボクセイ》は新疆《しんきょう》の一地方で、甚だ未開|辺僻《へんぺき》の地である(筆者、紀暁嵐は曾《かつ》てこの地にあったので、烏魯木斉地方の出来事をたくさんに書いている)。その把総《はそう》(軍官で、陸軍|少尉《しょうい》の如きものである)を勤めている蔡良棟《さいりょうとう》が話した。
この地方が初めて平定
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