しろと責めた。
「勿論のことでございます」と、役人は答えた。「しかし、あまり奇怪の出来事でございますから、一カ月間の御猶予をねがいまして、そのあいだにその秘密を探り出したいと思います。わたくしが逃げ隠れをしない証拠には、妻や子を人質に残してまいります」
中丞もそれを許したので、役人は再びかの古廟の付近へ行きむかって、種々に手を尽くして穿索《せんさく》したが、遂にその端緒を探り出し得ないので、もう思い切って帰ろうかと思案しながら、付近の町をぼんやりと歩いていると、町のまんなかで盲目の老人に逢った。
なんでも判らないことがあらば御相談なさい。――こういう牌《ふだ》がその老人の胸にかけてあった。物は試《ため》しであると思ったので、役人は彼をよび止めて相談すると、老人は訊いた。
「あなたの失った金は幾らです」
「三千金です」
「それならば大抵こころ当りがあります。わたしと一緒においでなさい」
老人は先に立って案内した。最初の一日は人家のある村つづきであったが、それから先は深山へはいって、どこをどう辿ったのか判らなかったが、ともかくも第三日の午《ひる》頃に大きい賑やかな町へ行き着いた。と思
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