時のいたずらであるから、再びそれを射ようともしなかった。
ある日、中丞《ちゅうじょう》が来て軍隊を検閲するというので、一軍の将士はみな軍門にあつまり、牆壁《しょうへき》をうしろにして整列していると、かの鳥がその空の上に舞って来て、脛に負っている矢を地に落した。それがあたかもかの軍士の前に落ちて来たので、何ごころなく拾い取って眺めていると、俄かに耳が激しく痒《かゆ》くなったので、彼はその矢鏃《やじり》で耳を掻いていると、突然にうしろの壁の一部が頽《くず》れて来て、その右の臂《ひじ》の上に落ちかかったので、矢鏃は耳の奥へ深く突き透った。
「これは鳥の恨みだ。わたしは助からない」と、軍士は言った。
果たして数日の後に、彼は死んだ。
剣侠
某|中丞《ちゅうじょう》が上江の巡撫《じゅんぶ》であった時、部下の役人に命じて三千金を都へ送らせた。
その途中、役人は古い廟に一宿すると、その夜のあいだにかの三千金を何者にか奪われた。しかも扉の鑰《かぎ》は元のままになっているので、すこぶる不思議に思ったが、ともかくも引っ返してその事を報告すると、中丞は大いに立腹して彼にその償《つぐな》いを
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