内の者どもも不思議に思った。
「世には名画の奇特《きどく》ということがないとは言えない。それでは、試しにその鷹の頸に付いている綱を焼き切ってみようではないか」
評議一決して、その通りに綱を切って置くと、その夜は狐が姿をみせなかった。翌る朝になって、その死骸が座敷の前に発見された。かれは霊ある鷹の爪に撃ち殺されたのであった。
その後、張の家は火災に逢って全焼したが、その燃え盛る火焔《ほのお》のなかから、一羽の鷹の飛び去るのを見た者があるという。
無頭鬼
張献忠《ちょうけんちゅう》はかの李自成《りじせい》と相|列《なら》んで、明《みん》朝の末期における有名の叛賊である。
彼が蜀《しょく》の成都《せいと》に拠って叛乱を起したときに、蜀王の府をもってわが居城としていたが、それは数百年来の古い建物であって、人と鬼とが雑居のすがたであった。ある日、後殿のかたにあたって、笙歌の声が俄かにきこえたので、彼は怪しんでみずから見とどけにゆくと、殿中には数十の人が手に楽器を持っていた。しかも、かれらにはみな首がなかった。
さすがの張献忠もこれには驚いて地に仆《たお》れた。その以来、かれは
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