が》れることが出来なくなりました。それを救って下さるのは、あなたのほかにありません。明日わたくしの胸の上に古い鏡を見付けたらば、どうぞお取りなさらないように願います。そうして元のように土をかけて置いて下されば、きっとお礼をいたします」
くれぐれも頼んで、彼女の姿は消えた。あくる日、人をあつめて工事に取りかかると、果たして土の下から一つの古い棺を掘り出して、その棺をひらいてみると、内には遠いむかしの粧《よそお》いをした美人の死骸が横たわっていて、その顔色は生けるがごとく、昨夜の夢にあらわれた者とちっとも変らなかった。更にあらためると、女の胸には直径五、六寸の鏡が載せてあって、その光りは人の毛髪を射るようにも見えた。忰は夢のことを思い出して、そのままに埋めて置こうとすると、家僕《しもべ》の一人がささやいた。
「その鏡は何か由緒のある品に相違ありません。いわゆる掘出し物だから取ってお置きなさい」
好奇心と慾心とが手伝って、忰は遂にその鏡を取り上げると、女の死骸はたちまち灰となってしまった。これには彼もおどろいて、慌ててその棺に土をかけたが、鏡はやはり自分の物にしていると、女の姿が又もや彼
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