ぬと言い渡された。それで役人は大いに喜んだが、さてその一紙には何事がしるしてあったのか、その秘密はわからなかった。しかも後日になって、その書中には大略左のごときことが認《したた》めてあるのを洩れ聞いた。
――おまえは平生から官吏として賄賂をむさぼり、横領をほしいままにしている。その罪まことに重々である。就いては小役人などを責めて、償いの金を徴収するな。さもなければ、何月何日の夜半に、おまえの妻の髪の毛が何寸切られていたか、よく検《あらた》めてみろ――
中丞が顔の色を変えて恐れたのも無理はなかった。彼の妻は、その通りに髪を切られていたのである。かの無名の偉丈夫は、いわゆる剣侠のたぐいであることを、役人は初めてさとった。
鏡の恨み
荊《けい》州の某家の忰は元来が放埒無頼《ほうらつぶらい》の人間であった。ある時、裏畑に土塀《どべい》を築こうとすると、その前の夜の夢に一人の美人が枕もとに現われた。
「わたくしは地下にあることすでに数百年に及びまして、神仙となるべき修煉《しゅうれん》がもう少しで成就するのでございます。ところが、明日おそろしい禍いが迫って参りまして、どうにも逃《の
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