ぎょ》の大きいので、紅い旗のように見えたのは、その鱗《うろこ》や脊鰭《せびれ》でございます。あの魚とこの舟とは十五里も距《はな》れているのですが、もしあの魚がからだを一度ゆすぶったら、こんな舟は木の葉のようにくつがえされてしまいます。あの魚は北へのぼり、この舟は南へくだり、たがいに行き違いになりながら、この強い風に幾時間を費したのですから、おそらくかの魚の長さは幾百里というのでございましょう。考えても怖ろしいことでございます」
荘子《そうじ》のいわゆる鯤鵬《こんぼう》の説も、必ずしも寓言《ぐうげん》ではないと、使いはさとった。
※[#「がんだれ+萬」、第3水準1−14−84]鬼《れいき》の訴訟
秦棣《しんてい》が宣州の知事となっている時である。某村の民家で酒を密造しているのを知って、巡検をつかわして召捕らせた。
巡検は数十人の兵を率いて、夜半にその家を取り囲むと、それは村内に知られた富豪であるので、夜なかに多勢《たぜい》が押し寄せて来たのを見て、賊徒の夜襲と早合点して、太鼓を鳴らして村内の者どもを呼びあつめた。その家にも大勢《おおぜい》の奉公人があるので、かれこれ一緒に
前へ
次へ
全35ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング