協力して、巡検その他をことごとく捕縛してしまった。おれは役人であるといっても、激昂しているかれらは承知しないのである。
 それが県署にもきこえたので、県の尉《じょう》が早馬で駈け付けると右の始末である。何分にも夜中といい相手は多勢であるので、尉はまずいい加減にかれらをなだめた。
「よし、よし。お前の家で強盗どもを捕えたのは結構なことだ。ともかくもわたしの方へ引き渡してくれないか。おまえ達にも褒美をやるよ」
 だまされるとは知らないで、かれらは縄付きの巡検らをひき渡した。その家の主人と忰《せがれ》と孫との三人も、その事情を訴えるために付いて行った。さて行き着くと相手の態度は俄かに変って、知事の秦棣《しんてい》は巡検らの縄を解いて、あべこべにかの親子ら三人を引っくくった。
「役人を縛って、強盗呼ばわりをするとは不届きな奴らだ」
 かれらはからだ全体を麻縄で厳重にくくり上げられて、いずれも一百ずつ打たれた。縄を解くと、三人はみな息が絶えていた。それはあまりに苛酷の仕置きであるという批難もあったが、秦棣の兄は宰相《さいしょう》であるので、誰も表向きに咎める者はなかった。但し秦棣はその明くる年に
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