ょう》(大臣)の趙鼎《ちょうてい》が遠く流されて朱崖《しゅがい》にあるとき、桂林《けいりん》の帥《そつ》が使いをつかわして酒や米を贈らせた。雷《らい》州から船路をゆくこと三日、風力がすこぶる強いので、帆を十分に張って走らせると、洪濤《おおなみ》のあいだに紅い旗のようなものが続いてみえた。
距離が遠いのでよく判《わか》らないが、あるいは海賊か、あるいは異国の兵かと、舟びとを呼んでたずねると、かれらは手をふって、なんにも言うなと制した。見れば、その顔色が甚だおだやかでない。
どうした事かと疑い惑《まど》っていると、舟びとの一人はやがて髪をふり乱して刀を持って、篷《とま》のうしろに出たかと思うと、自分の舌を傷つけてその血を海のなかへしたたらした。
「口を利いてはいけません。眼を瞑《と》じておいでなさい」と、舟びとは注意した。
その通りにしていると、ふた時《とき》ほども過ぎた後に、舟びとらはたちまち喜びの声をあげた。
「御安心なさい。みんな助かりました」
なにが何だかちっとも判らないので、使いは舟びとにその子細《しさい》をただすと、かれらは初めて説明した。
「けさから見たのは鰌魚《ゆう
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