置くと、その夜半に女が来て、それを見て怨み罵った。
「今まで夫婦のように暮らしていながら、これは何のことです。わたしに来るなと言うならば、もう参りません。決して再びわたしのことを憶《おも》ってくださるな」
言い捨てて立ち去ろうとするらしいので、劉はまた俄かに未練が出て、急にその符を引っぱがして、いつもの通りに女を呼び入れた。
それから数日の後、かの道士は役所へたずねて来た。かれは劉をひと目見て眉をひそめた。
「あなたはいよいよ危うい。実に困ったものです。しかし、ともかくも一応はその正体をごらんに入れなければならない」
道士は人をあつめて数十|荷《か》の水を運ばせ、それを堂上にぶちまけさせると、一方の隅の五、六尺ばかりの所は、水が流れてゆくと直ぐに乾いてしまうのである。そこの床下を掘らせると、女の死骸があらわれた。よく見ると、それはかの女をそのままであるので、劉は大いに驚かされた。彼はそれから十日を過ぎずして死んだ。
餅を買う女
宣城《せんじょう》は兵乱の後、人民は四方へ離散して、郊外の所々に蕭条《しょうじょう》たる草原が多かった。
その当時のことである。民家の妻が妊
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