さげることは出来ないのです」
かれらは汪のいましめを解いて、昨夜来の無礼をあつく詫びた上に、官道までつつがなく送り出して、この事はかならず他言して下さるなと、堅く頼んで別れた。
床下の女
宋《そう》の紹興《しょうこう》三十二年、劉子昂《りゅうしこう》は和州《わしゅう》の太守に任ぜられた。やがて淮上《わいしょう》の乱も鎮定したので、独身で任地にむかい、官舎に生活しているうちに、そこに出入りする美婦人と親しくなって、女は毎夜忍んで来た。
それが五、六カ月もつづいた後、劉は天慶観《てんけいかん》へ参詣すると、そこにいる老道士が彼に訊《き》いた。
「あなたの顔はひどく痩せ衰えて、一種の妖気を帯びている。何か心あたりがありますか」
劉も最初は隠していたが、再三問われて遂に白状した。
「実は妾《しょう》を置いています」
「それで判りました」と、道士はうなずいた。「その婦人はまことの人ではありません。このままにして置くと、あなたは助からない。二枚の神符《しんぷ》をあげるから、夜になったら戸外に貼りつけて置きなさい」
劉もおどろいて二枚の御符を貰って帰って、早速それを戸の外に貼って
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