今日《こんにち》わたくしがここへ呼び込まれましたのは、死んだ女がむかしの恨みを言おうがためでございましたろう」
言い終って、彼はまた泣いた。
その家では数百金をあたえて彼を帰してやった。そうして、その以後は神を祭らなくなったそうである。
雨夜の怪
後に尚書《しょうしょ》に立身した呂安老《りょあんろう》という人は、若いときに蔡《さい》州の学堂にはいっていた。ある日同じ寄宿舎にいる学生七、八人と夕方から宿舎をぬけ出して、そこらを遊びまわって、夜なかに帰って来ると、にわかに驟雨《しゅうう》がざっ[#「ざっ」に傍点]と降り出した。
かれらは雨具を持っていなかった。しかもこの当時は学堂の制度がはなはだ厳重で、無断外泊などは決して許されないので、かれらは引っ返して酒屋へ行って、単衣《ひとえ》の衾《よぎ》を借りた。その衾の四隅を竹でささえて、大勢がその下へはいって駈けて来ると、学堂の墻《かき》に近づいた頃に、夜廻りの者が松明《たいまつ》を持って、火の用心を呼びながら来たので、これに見付けられては大変だと思って、かれらは俄かに立ちすくんだ。双方相|距《さ》ること二十余歩、夜廻りの者は
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