るのであった。卒は大胆な男であるので、進み寄って冗談半分に声をかけた。
「おい。おれにも銭《ぜに》をくれ」
 彼が手を出すと、諸人は黙って銭をくれた。その額は三千銭ほどであった。夜が明けてからあらためると、それは本当の銅銭であったので、彼は大いに喜んだ。明くる晩もやはりその通りで、彼は又もや三千あまりの銭を貰って来た。それに味を占めて、彼は上役に巧く頼み込んで、以来は夜更けの見まわりを、自分ひとりが毎晩受持つことにした。そうして、相変らず賭博者の群れからテラ銭《せん》のようなものを受取っていたので、彼の懐中はいよいよ膨らんだ。
 そのうちに、城中の軍資を入れてある庫《くら》のなかから銀数百両と銭数千|緡《びん》が紛失したことが発見されて、その賊の詮議が厳重になった。かの卒は近来俄かに銭使いがあらい上に、新しい着物などを拵《こしら》えたというのが目について、真っ先に捕えられて吟味を受けることになったので、彼も包み切れないで正直に白状した。太守の鄭はその賭博者の風俗や人相をくわしく取調べた後に、こう言った。
「それはまことの人ではあるまい。おそらく土偶《どぐう》のたぐいであろう」
 そこで
前へ 次へ
全35ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング