の怪を語った。
「昨年のことでございます。ひとりのお客人が客室にお泊まりになりました。その部屋のうちには旅※[#「木+親」、第4水準2−15−75]《りょしん》がござりました。申すまでもなく、旅で死んだお人の棺をお預かり申していたのでござります。すると、夜なかにお客人はその棺のうちから光りを発したのを見て、不思議に思ってじっと見つめていると、その光りのなかに人の影が動いているらしいので、お客人も驚きました。となりは仏殿であるので、さあ[#「さあ」に傍点]といったらそこへ逃げ込むつもりで、寝床の帳《とばり》をかかげて窺っていると、棺のなかの鬼も蓋《ふた》をあげてこちらを窺っているのでござります。いよいよ堪《た》まらなくなって、お客人は寝床からそっとひと足降りかかると、鬼もまた、棺の中からひと足踏み出す。ぎょっとして足を引っ込ませると、鬼もまた足を引っ込ませる。こっちが足をおろすと、鬼もまた足をふみ出すというわけで、同じようなことを幾たびも繰り返しているうちに、お客人ももうどうにもならないので、思い切って寝床から飛び降りて逃げ出すと、鬼も棺から飛び出して追って来る。お客人は仏殿へ逃げ込みな
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