きたな》い姿をしていたが、その容貌《きりょう》は目立って美しいので、主人の鄭は自分の家へ引き取って妾《しょう》にしようと思った。女にも異存はなく、やがては餓死するかも知れない者を、お召|仕《つか》いくだされば望外の仕合わせでございますと答えた。そこで請人《うけにん》を立てて相当の金をわたして、女はここの家の人となって、髪を結わせ、新しい着物に着かえさせると、彼女の容貌はいよいよ揚がってみえた。
女は美しいが上に、なかなか利口な質《たち》であるので、主人にも寵愛されて、無事に五、六カ月をすごしたが、ある夜、大雷雨の最中に、寝間の外から声をかける者があった。
「先日の婦人を返してください。あの女は餓死すべき命数になっているので、生かして置くことは出来ないのです」
鄭は内からそれに応対していたが、外にいるのは何者であるか判らない。おそらく何かの妖物《ようぶつ》であろうと思われるので、堅く拒《こば》んで入れなかった。外の声もいつかやんだ。
しかし夜が明けてから考えると、こういう女をいつまでもとどめて置くのは、自分の家のためにもよろしくないらしい。いっそ思い切って暇《ひま》を出そうかとも思
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