》を採りに上陸すると、島びとに見つけられて早々に逃げ帰ったが、その一人は便所へ行っていたために逃げおくれて、遂にかれらの捕虜《とりこ》となった。
島びとは鉄の綱で彼をつないで、田を耕《たがや》させた。一、二年の後には互いに馴れて、縛って置くことを免《ゆる》されたが、初めのうちは島びとがあつまって酒を飲むたびに、彼をその席へひき出して、焼けた鉄火箸を彼の股へあてるのである。かれらはその苦しみもがくのを見て、面白そうに大いに笑った。要するに、彼に残酷な刑を加えて、酒宴の余興とするのである。
彼ものちにはそれを覚《さと》ったので、いかに熱い火箸をあてられても、騒がず、叫ばず、歯を食いしばってじっと我慢していたので、かれらは興を失ったらしく、ついにその拷問《ごうもん》をやめてしまった。
三年後、かれは幸いに、便船を得て逃げ帰ったが、その両股は一面に黒く焼かれていた。
三重歯
右相丞|鄭雍《ていよう》の甥の鄭某は拱州《こうしゅう》に住んでいた。その頃、京東《けいとう》は大饑饉で、四方へ流浪して行く窮民が毎日つづいてその門前を通った。
そのなかに一人の女があった。泥まぶれの穢《
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