に殺された。その時、ある兵卒が趙の首をさがし求めて、そのひたいを割いてみると果たして珠を得た。
兵卒はその珠を持ち去って、胡人の商人に売ろうとすると、商人は言った。
「この珠はもう死んでいるから、役に立たない」
そこで、塑像《そぞう》を作る人に廉く売って、仏像のひたいの珠に用いるのほかはなかった。
異姓
永平《えいへい》初年のことである。姓は王《おう》、名は恵進《けいしん》という僧があった。
彼は福感《ふくかん》寺に住んでいたが、ある朝、わが寺を出て資福院《しふくいん》という寺をたずねると、その門前に一人の大男が突っ立っていた。
男はからだの大きいばかりでなく、その全身の色が藍《あい》のようであったが、恵進を見て突然に追い迫って来たので、僧は恐れて逃げまわった。竹簀橋《ちくさくきょう》まで逃げて来て、そこらの民家へ駈け込むと、男もつづいて追い込んで、僧を捉えて無理無体に引き摺って行こうとして、どうしても放さなかった。
僧は悲鳴をあげて救いを祈ると、その男は訊いた。
「おまえの姓はなんというのだ」
「王といいます」
「王か。名は同じだが、姓が違っている」
言い捨て
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