まなくなった。馬は地面を踏んだままで動かないのである。彼は僕《しもべ》を見かえって言った。
「いつかは船の行き着いた所で銭を得たから、今度も馬の踏みとどまった所に、なにか掘出し物があるかも知れない」
地を掘ると、果たして金五百両を得たので、自分の家へ持って帰った。
その後に彼は城中の町へゆくと、胡人《こじん》の商人に逢った。商人はその頭に珠《たま》のあることを知って、人をもって彼を誘い出させた。そうして、たがいに打ち解けた隙をみて、彼は酒をすすめ、その酔っている間に珠を奪い去った。その末子のひたいには、生まれた時から一つの毬《まり》を割ったような肉が突起していたのであるが、珠を失うと共に、その肉は落ちてしまった。
家へ帰ると、その変った顔を見て、家族や友達も皆おどろいた。その以来、彼は精神|朦朧《もうろう》のていで、やがて煩い付いて死んだ。その家計もまた次第におとろえた。
これと同様の話がある。
宣《せん》州の節使|趙鍠《ちょうこう》もまた額の上に一塊の肉が突起しているので、珠があるのではないかと疑われていた。やがて淮南軍《わいなんぐん》のために郡県を攻略され、趙も乱兵のため
前へ
次へ
全15ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング