北ざかいの大王埠《たいおうふ》に胡《こ》という家があった。家はもと貧しかったが、五人の子のうちで末子《ばっし》は姿も心もすぐれていて、この子が生まれてからは、その家がだんだんに都合がよくなって、百姓仕事も繁栄にむかい、家計もいよいよ豊かになったので、近所の者も不思議がっていた。
ある時、その家では末子に言いつけて、舟にたくさんの麦を積み込み、流れにさかのぼって州の市《いち》へ送らせると、その途中の河岸に険《けわ》しい所があって、牽《ひ》き舟は容易に通じない。よんどころなく江を突っ切って進んでゆくと、やがて岸に着いた時に、船の勢いを止めるにも止められず、あわやという間に突き当って、洲はくだけ、岸はくずれた。
その崩れた穴から数百万の銭《ぜに》が発見されたので、麦などはもうどうでもいい。麦はみな投げ捨てて、その銭を積んで帰った。
それによって、その家はますます富み、奉公人や馬などを持って、衣服も着飾るようになった。
「この子には福がある。長く村落に蟄《ちっ》しているよりも、城中の町に往復させて、世間のことを見習わせるがよかろう」
そこで、その末子が出てゆくと、途中で乗っている馬が進
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