見いだされます。洛邑《らくゆう》にその職人が居りますが、その年頃を測ると余ほどの老人になって居りまして、あるいはもうこの世にいないかも知れません。それでも子孫のうちには、その道を伝えられている者があろうと思います。いずれにしても、洛に住む職人でなければ、これを伐ることは出来ません」
 李公は受取って、その老人を帰した。それから洛中をたずねさせると、かの職人は果たして死んだあとであった。その子が召されて来て、暫くその木材を睨《にら》んでいたが、やがてよろしゅうございますと引き受けた。
「これはしずかに伐らなければなりません」
 その言う通りに切り開いて、二|面《めん》の琵琶の胴を作らせたが、その面《おもて》には自然に白い鴿《はと》があらわれていて、羽から足の爪に至るまで、巨細《こさい》ことごとく備わっているのも不思議であった。ただ、職人が少しの手あやまちで、厚さ幾分のむら[#「むら」に傍点]が出来たために、一羽の鴿はその翼《つばさ》を欠いたので、李公はその完全なものを宮中に献じ、他の一面を自分の手もとにとどめて置いた。それは今も伝わって民間にある。

   異肉

 洪州《こうしゅう》の
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