、還られなくなるかも知れませんぞ」
 それでも余りに飢えているので、その僧は無理に頼んで何か食わせてもらった。
 それからまた連れ立って行くこと十数里、路がだんだんに狭くなって、やがて一つの小さい洞穴を見つけたので、それをくぐって出ようとすると、さきに物を食った僧は立ちながら石に化してしまった。
 ひとりの僧は無事に山を出て、ここはどこだと人に訊くと、牟平《ぼうへい》の海浜であるといわれた。

   異石

 帝|堯《ぎょう》の時に、五つの星が天から落ちた。その一つは土の精で、穀城《こくじょう》山下に墜ち、化して※[#「土+已」、159−2]橋《ひきょう》の老人となって兵書を張良《ちょうりょう》に授けた。
「この書をよめば帝王の師となることが出来る。後日にわたしを探し求めるならば、穀城山下の黄いろい石がそれである」
 いわゆる黄石公《こうせきこう》である。張良は漢をたすけて功成るの後、穀城山下に於いて果たして黄石を発見した。彼は商山《しょうざん》にかくれていた四皓《しこう》にしたがい、道を学んで世を終ったので、その家では衣冠と黄石とを併せて葬った。占う者は常にその墓の上に、黄いろい気が
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