来、ここらに報寃蛇の跡を絶ったが、その子細《しさい》は誰にも判らなかった。
一年の後、宦者は赦されて長安の都に帰った。彼は金の亀を返上して、泣いて感謝した。
「このお蔭に因りまして、わたくし一人の命ばかりでなく、南方ぜんたいの人間が永く毒類の禍いを逃がれることになりましたのは、一に聖徳、二に神亀の力でございます」
異洞
乾符《けんぷ》年中の事、天台の僧が台山《たいざん》の東、臨海《りんかい》県のさかいに一つの洞穴《ほらあな》を発見したので、同志の僧と二人連れで、その奥を探りにはいった。初めの二十里ほどは路が低く狭く、ぬかるみのような所が多かったが、それからさきは次第に闊《ひろ》く平らかな路になって、さらに山路にさしかかった。
山は十里ほどで、それを越えると町へ出た。町のすがたも住む人びとも、世間普通と変ることはなかった。この僧は気を吸うことを習っていたので、別に飢えも渇《かわ》きも感じなかったが、連れの僧はひどく飢えて来た。
そこである食い物店へ行って食を乞うと、そこにいる人が言った。
「飢渇《きかつ》を忍んで行けば、子細なく還られるが、ここの土地の物をむやみに食うと
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