と》の酒を飲んだ。
女たちはかれを扶《たす》けて奥にはいったが、そこでも又笑い楽しむ声がきこえた。やや暫くして、女が出て来て※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]の一行を招いたので、すぐに武器をたずさえて踏み込むと、一頭の大きい白猿が四足《しそく》を牀《ゆか》にくくられていて、一行を見るや慌て騒いで、しきりに身をもがいても動くことが出来ず、いたずらに電光のような眼を輝かすばかりであった。一行は先を争って刃を突き立てたが、あたかも鉄石の如くである。しかも臍の下を刺すと、刃《やいば》は深く突き透って、そそぐが如くに血が流れた。
「ああ、天がおれを殺すのだ」と、かれは大きい溜め息をついた。「貴様たちの働きではない。しかし貴様の女房はもう孕《はら》んでいる。必ずその子を殺すな。明天子に逢って家を興すに相違ないぞ」
言い終って彼は死んだ。その庫《くら》をさがすと、宝物珍品が山のように積まれていて、およそ人世の珍とする物は備わらざるなしという有様であった。名香《めいこう》数|斛《こく》、宝剣一|雙《そう》、婦女三十人、その婦女はみな絶世の美女で、久しいものは十年もとどまっている。容色おとろ
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