麻を隠して置いて縛ったらば、おそらく切ることは出来まいと思われます。彼のからだはすべて鉄のようで刃物などは透りませんが、ただ臍《へそ》のした五、六寸のところを大事そうに隠していますから、そこがきっと急所で、刃物を防ぐことが出来ないのであろうと察せられます」
女たちは更にかたわらの巌室《いわむろ》を指さして教えた。
「そこは食物|庫《ぐら》ですから暫く忍んでおいでなさい。酒を花の下に置き、犬を林のなかに放して置いて、わたし達の計略が成就《じょうじゅ》した時に、あなた方に合図をします」
その通りにして、一行は息を忍ばせて待っていると、日も早や申《さる》の刻(午後三時―五時)とおぼしき頃に、練絹《ねりぎぬ》のような物があなたの山から飛ぶが如くに走って来て、たちまちに洞《ほら》のなかにはいった。見れば、身のたけ六尺余の男で、美しい髯《ひげ》をたくわえ、白衣を着て杖を曳いていた。かれは女たち大勢に取り巻かれて庭に出たが、たちまちに犬を見つけて驚き喜び、身を跳らせて引っ捕えたかと思うと、引き裂いて片端から啖《くら》い尽くした。女たちは玉の杯で酒をすすめると、機嫌よく笑い興じながらかれは数|斗《
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