って睡眠中の公主の顔を撫でた。思わず頭をあげるあいだに、かれは他の枕と掏《す》りかえて来た。公主は夜の明けるまでそれを覚らなかった。
又ある時、彼は吉莫靴《かわぐつ》をはいて、石瓦の城に駈けあがった。城上の墻《かき》には手がかりがないので、かれは足をもって仏殿の柱を踏んで、檐《のき》さきに達し、さらに椽《たるき》を攀《よ》じて百尺の楼閣に至った。実になんの苦もないのである。太宗帝は不思議に思った。
「こういう男は都の近所に置かない方がよい」
彼は地方官として遠いところへ遷《うつ》された。時の人びとは彼を称して壁龍《へきりゅう》といった。
太宗は又かつて長孫無忌に七宝帯を賜わった。そのあたい千金である。この当時、段師子《だんしし》と呼ばれる大泥坊があって、屋上の椽のあいだから潜り込んで無忌の枕もとに降り立った。
「動くと、命がありませんぞ」
彼は白刃を突き付けて、その枕の函の中から七宝帯を取り出した。更にその白刃を床に突き立てて、それを力に飛びあがって、ふたたび元の椽のあいだから逃げ去った。[#地から1字上げ](同上)
登仙奇談
唐の天宝《てんぽう》年中、河南※[#「
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