左様な不法を働いて、君はたとい我を懼《おそ》れずと誇るとも、省《かえり》みて君のこころに恥じないであろうか。君はみずから悔い改めて早々に立ち去るべきである。小勇を恃《たの》んで大敗の辱《はじ》を蒙《こうむ》るなかれ。――
このいかめしい抗議文をうけ取って、盧はまだ何とも答えないうちに、その紙は灰のごとくにひらひらと散ってしまった。つづいて又、物々しく呼ぶ声がきこえた。
「柳将軍、御意《ぎょい》を得《え》申す」
忽然《こつぜん》として現われ出でたのは、身のたけ数十|尋《ひろ》(一尋は六尺)もあろうかと思われる怪物で、手に一つの瓢《ふくべ》をたずさえて庭先に突っ立った。下役人は弓を張って射かけると、矢は彼の手にある瓢にあたったので、怪物はいったん退いてその瓢を捨てたが、更にまた進んで来て、首《こうべ》を俯《ふ》してこちらの様子を窺っているらしいので、下役人は更に二の矢を射かけると、今度はその胸に命中したので、さすがの怪物も驚いたらしく、遂にうしろを見せておめおめと立ち去った。
夜が明けてから彼の来たらしい方角をたずねると、東の空き地に高さ百余尺の柳の大樹《たいじゅ》があって、ひと筋の
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