たところへ、李が戻って来た。彼は劉の話をきいて大いに怒った。
「ばかばかしい。おれたちは今夜初めてこの商売をするのじゃあねえ。魚なんぞが化けて堪まるものか」
劉がいかに説明して聞かせても、李は決して信じなかった。商売物の魚をみんな捨ててしまってどうするのだと、彼は激しく劉に食ってかかるので、劉もその言い訳に困って、とうとう李の損失だけを自分がつぐなうことにした。そうなると、剰《あま》すところは僅かに百銭に過ぎないので、劉はその村で荻《おぎ》十余束を買い込み、あしたの朝になったらば船に積むつもりで、その晩は岸のほとりに横たえて置いた。
さて翌朝になって、いよいよそれを積み込もうとすると、荻の束《たば》がひどく重い。怪しんでその束を解いてみると、緡《さし》になっている銭《ぜに》一万五千を発見した。それには「汝に魚の銭を帰《き》す」と書いてあった。劉はますます奇異の感を深うして、瓜洲《かしゅう》に僧侶をあつめて読経をしてもらった上に、かの銭はみな施して帰った。
柳将軍の怪
東洛《とうらく》に古屋敷があって、その建物はすこぶる宏壮であるが、そこに居る者は多く暴死《ぼうし》するの
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