方角へむかったかと思うと、その夜半に再び帰って来たのを見たので、翌日それを寺僧に語ると、僧もすこぶる不思議に思っていた。
それからまた五、六日の後、村民の斎《とき》に呼ばれて、寺中の僧は朝からみな出てゆくと、その留守の間にかの土龍の姿が見えなくなったので、人びとはまた驚かされた。
「たとい土で作った物でも、龍の形をなす以上、それが霊ある物に変じたのであろう」
こう言っていると、その晩に渭水の上から黒雲が湧き起って、次第にこの寺をつつむように迫って来たかと見るうちに、その雲のあいだから一つの物が躍り出て、西の軒端へ流れるように入り込んだので、寺の僧らはまた驚き怖れた。やがて雲も収まり、空も明るくなったので、かの軒の下にあつまって瞰あげると、土龍は元の通りに帰っていたが、その鱗《うろこ》も角《つの》もみな一面に湿《ぬ》れているのを発見した。
その以来、龍の再び抜け出さないように、鉄の鎖《くさり》をもって繋いで置くことにした。旱魃《かんばつ》のときに雨を祈れば、かならず奇特《きどく》があると伝えられている。
阿弥陀仏
宣城《せんじょう》郡、当塗《とうと》の民に劉成《りゅうせ
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