いつまでも白いままで残されている。
法喜寺の龍
政陽《せいよう》郡の東南に法喜寺《ほうきじ》という寺があって、まさに渭水《いすい》の西に当っていた。唐の元和《げんな》の末年に、その寺の僧がしばしば同じ夢をみた。一つの白い龍《りゅう》が渭水から出て来て、仏殿の軒にとどまって、それから更に東をさして行くのである。不思議な事には、その夢をみた翌日にはかならず雨が降るので、僧も怪しんでそれを諸人に語ると、清浄の仏寺に龍が宿るというのは、さもありそうなことである。そのしるしとして、仏殿の軒に土細工の龍を置いたらどうだという者があった。
僧も同意して、職人に命じて土の龍を作らせることになった。惜しむらくはその職人の名が伝わっていないが、彼は決して凡手ではなかったと見えて、その細工は甚だ巧妙に出来あがって、寺の西の軒に高く置かれたのを遠方から瞰《み》あげると、さながらまことの龍のわだかまっているようにも眺められた。
長慶《ちょうけい》の初年に、その寺中に住む人で毎夜門外の宿舎に眠るものがあった。彼はある夜、寺の西の軒から一つの物が雲に乗るように飄々《ひょうひょう》と飛び去って、渭水の
前へ
次へ
全27ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング