更に盧《ろ》氏の娘を娶《めと》りましたので、家内に風波が絶えません。又その女が気の強い乱暴な生まれ付きで、わたくしのような者にはしょせん同棲はできません。そんなわけで、逃げ出したような、逐い出されたような形で、劉家を立ち退いたのでございますが、どこへ行くという目的《めあて》もないので、こうして路頭《ろとう》に迷っているのでございます」
陳は律義《りちぎ》一方の人物であるので、初対面の女の訴えることをすべて信用してしまった。なにしろ行く先がなくては困るであろうと、一緒に連れ立って行くうちに、いつか夫婦のような関係が結ばれて、都へのぼって後も永崇里《えいそうり》というところに同棲していた。然るにこの女、最初のあいだは大層つつましやかであったが、だんだんに乱暴の本性《ほんしょう》をあらわして、時には気ちがいのようになって我が夫に食ってかかることもあるので、飛んだ者と夫婦になったと、陳も今さら悔んでいた。
ある日、陳が外出すると、その留守のあいだに妻は夫の衣類をことごとく庭先へ持ち出して、みなずたずたに引き裂いたばかりか、夕方になって陳が戻って来ると、彼女は門を閉じて入れないのである。陳も
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