来たが、そのなかに※[#「うかんむり/必/冉」、82−15]采《ねいさい》という画家もまじっていた。
 その※[#「うかんむり/必/冉」、82−16]采があるとき竹林《ちくりん》の七賢人《しちけんじん》の図をかいて、それが甚だ巧みに出来たので、観る者いずれも感嘆していると、一坐の客のうちに郭萱《かくけん》といい柳城《りゅうじょう》という二人の秀才があって、たがいに平生から軋《きし》り合っていたが、柳城はその図をひとめ見て、あざ笑いながら主人の冉従長に言った。
「この画は人間の体勢に巧みであるが、人間の意趣《いしゅ》というものが本当に現われていない。わたしはこの画に対してなんらの筆を着けずに、一層の精彩を加えてお見せ申そうと思うが、いかがでしょう」
 冉はすこし驚いた。
「あなたにどんな芸があるか知らないが、なんらの筆を加えずに、この画の精彩を添えるというようなことが出来ますか」
「それは出来ます」と、柳は平気で答えた。「わたしはこの画のなかへはいって直すのです」
 それを聞いて、郭萱も笑い出した。
「子供だましのような事を言ってはいけない。なんにも筆を入れないで、あの画を直すことが出来
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