思ったら、妬婦津の渡し場に立っていろ。渡る女のよいか醜いかは自然にわかる」
悪少年
元和《げんな》の初年である。都の東市に李和子《りわし》という悪少年があって、その父を努眼《どがん》といった。和子は残忍の性質で、常に狗《いぬ》や猫を掻っさらって食い、市中の害をなす事が多かった。
彼が鷹《たか》を臂《ひじ》に据えて往来に立っていると、紫の服を着た男二人が声をかけた。
「あなたは李努眼の息子さんで、和子という人ではありませんか」
和子がそうだと答えて会釈《えしゃく》すると、二人はまた言った。
「少し子細《しさい》がありますから、人通りのない所で話しましょう」
五、六歩さきの物蔭へ連れ込んで、われわれは冥府の使いであるから一緒に来てくれと言ったが、和子はそれを信じなかった。
「おまえ達は人間ではないか。なんでおれを欺《だま》すのだ」
「いや、われわれは鬼《き》である」
ひとりがふところを探って一枚の諜状を取り出した。印《いん》の痕もまだあざやかで、李和子の姓名も分明にしるしてあった。彼に殺された犬猫四百六十頭の訴えに因って、その罪を論ずるというのである。
和子も俄かにお
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