た太原《たいげん》市中の出来事である。
町の小児《しょうに》らが河に泳いでいると、或る物が中流をながれ下って来たので、かれらは争ってそれを拾い取ると、それは一つの瓦の瓶《かめ》で、厚い帛《きぬ》をもって幾重《いくえ》にも包んであった。岸へ持って来て打ち毀《こわ》すと、瓶のなかからは身のたけ一尺ばかりの赤児《あかご》が跳《おど》り出したので、小児らはおどろき怪しんで追いまわすと、たちまち足もとに一陣の旋風が吹き起って、かの赤児は地を距《さ》る数尺の空を踏みながら、再び水中へ飛び去ろうとした。
岸に居あわせた船頭がそれを怪物とみて、棹《さお》をとって撃ち落すと、赤児はそのまま死んでしまったが、その髪は朱のように赤く、その眼は頭の上に付いていた。
人面瘡《じんめんそう》
数十年前のことである。江東《こうとう》の或る商人《あきんど》の左の二の腕に不思議の腫物《しゅもつ》が出来た。その腫物は人の面《かお》の通りであるが、別になんの苦痛もなかった。ある時たわむれに、その腫物の口中へ酒をそそぎ入れると、残らずそれを吸い込んで、腫物の面《かお》は、酔ったように赤くなった。食い物をあたえ
前へ
次へ
全41ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング