あって、殿上には衣冠の人が坐っている。階下には侍衛らしい者が、数千人も控えている。いずれも一寸あまりの小さい人間ばかりである。衣冠の人は士を叱った。
「おれは貴様が独りでいるのを憐れんで、話し相手に子供を出してやると、飛んでもない怪我をさせた。重々《じゅうじゅう》不埒《ふらち》な奴だ。その罪を糺《ただ》して胴斬りにするから覚悟しろ」
 指図にしたがって、数十人が刃《やいば》をぬき連れてむかって来たので、士は大いに懼《おそ》れた。彼は低頭して自分の罪を謝すと、相手の顔色も少しくやわらいだ。
「ほんとうに後悔したのならば、今度だけは特別をもって赦《ゆる》してやる。以後つつしめ」
 士もほっとして送りだされると、いつか元の門外に立っていた。時はすでに五更で、部屋に戻ると、机の上には読書のともしびがまだ消え残っていた。
 あくる日、かの怪しい奴らの来たらしい跡をさがしてみると、東の古い階段の下に、粟粒《あわつぶ》ほどの小さい穴があって、その穴から守宮《やもり》が出這入りしているのを発見した。士はすぐに幾人の人夫を雇って、その穴をほり返すと、深さ数丈のところにたくさんの守宮が棲んでいて、その大き
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