おうぎ》を講釈させて上げようと思ったのです。それが判らないで、あなたは乱暴なことをして、若殿にお怪我をさせるとは何のことです。今にそのお咎《とが》めを蒙《こうむ》るから、覚えておいでなさい」
言うかと思う間もなく、大勢《おおぜい》の小さい人間が蟻《あり》のように群集してきて、机に登り、床にのぼって、滅茶苦茶に彼をなぐった。士もなんだか夢のような心持になって、かれらを追い攘《はら》うすべもなく、手足をなぐられるやら、噛まれるやら、さんざんの目に逢わされた。
「さあ、早く行け。さもないと貴様の眼をつぶすぞ」と、四、五人は彼の面《かお》にのぼって来たので、士はいよいよ閉口した。
もうこうなれば、かれらの命令に従うのほかはないので、士はかれらに導かれて門を出ると、堂の東に節使衙門《せつしがもん》のような小さい門がみえた。
「この化け物め。なんで人間にむかって無礼を働くのだ」と、士は勇気を回復して叫んだが、やはり多勢《たぜい》にはかなわない。又もやかれらに噛まれて撲られて、士は再びぼんやりしているうちに、いつか其の小さい門の内へ追いこまれてしまった。
見れば、正面に壮大な宮殿のようなものが
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