いものは色赤くして長さ一尺に達していた。それが恐らくかれらの王であるらしい。あたりの土は盛り上がって、さながら宮殿のように見えた。
「こいつらの仕業だな」
士はことごとくかれらを焚《や》き殺した。その以来、別になんの怪しみもなかった。
怪物の口
臨湍寺《りんたんじ》の僧|智通《ちつう》は常に法華経《ほけきょう》をたずさえていた。彼は人跡《じんせき》稀《ま》れなる寒林に小院をかまえて、一心に経文|読誦《どくじゅ》を怠らなかった。
ある年、夜半にその院をめぐって、彼の名を呼ぶ者があった。
「智通、智通」
内ではなんの返事もしないと、外では夜のあけるまで呼びつづけていた。こういうことが三晩もやまないばかりか、その声が院内までひびき渡るので、智通も堪えられなくなって答えた。
「どうも騒々しいな。用があるなら遠慮なしにはいってくれ」
やがてはいって来た物がある。身のたけ六尺ばかりで、黒い衣《きもの》をきて、青い面《かお》をしていた。かれは大きい目をみはって、大きい息をついている。要するに、一種の怪物である。しかもかれは僧にむかってまず尋常に合掌した。
「おまえは寒いか」と、智
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