、水源《みなもと》を知らずして末流《すえ》を探るようなものであります。と言いましても、支那の著作物は文字通りの汗牛充棟《かんぎゅうじゅうとう》で、単に〈志怪の書〉だけでも実におびただしいのでありますから、容易に読破されるものではありません。わたくしが今日《こんにち》の会合を思い立ちましたのも、一つはそこにありますので、現代のお忙がしい方々に対して、支那小説の輪郭《りんかく》と、それが我が文学や伝説に及ぼした影響とを、いささかなりともお伝え申すことが出来れば、本懐の至りに存じます。
 ひと口に小説筆記と申しましても、その範囲があまりに広汎になりますので、こんにちは専《もっぱ》ら〈志怪の書〉すなわち奇談怪談を語っていただくことに致しました。勿論、支那の小説なるものは大抵は幾分の志怪気分を含んで居るようでありますが、ここでは明らかに〈志怪〉に限りました。実際、これらの〈志怪の書〉が早く我が国に輸入されまして、最もひろく我が国の人びとに読まれているのでございますから、その紹介が単なる猟奇趣味ばかりでないことは、先刻からの口上で御諒解を得たかと存じます。では、これから御《ご》順々にお願い申します
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