の娘は他人とは思えない程にかいがいしく立ち働いて、伊平を感謝させた。近所の人達からも褒められた。
 娘は江戸の生れであるが、七つの時に京へ移って、それから諸国を流浪して、しかも、継母《ままはは》にいじめられて、言いつくされない苦労をした末に、半分は乞食同様のありさまで、江戸の身寄りをたずねて下る途中であるが、長いあいだ音信不通であったので、その身寄りも今はどこに住んでいるか、よくは判らないというのである。
 そういう身の上ならば、的《あて》もなしに江戸へ行くよりも、いっそここに足を留めてはどうだと、伊平は言った。近所の人たちも勧めた。娘もそうして下されば仕合せであると答えた。その以来、お糸という娘は養女でもなく、奉公人でもなく、差しあたりは何ということもなしに伊平の家に入り込んで、この頃では商売の手伝いまでもするようになった。お糸は色白の上に容貌《きりょう》も悪くない。小さいときから苦労をして来たというだけに、人付合いも悪くない。それやこれやで近所の評判もよく、伊平さんはよい娘を拾い当てたと噂されている。
 婆さんの口からこんな話を聞かされているうちに、七兵衛ら三人は奥から出て来た。七
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