、取逃したかな。
(弥三郎はやはり其処らを見まわしている。モウロも窓に出て声をかける。)
モウロ あなたの撃った人はここに居ります。
弥三郎 え、人を撃った……。
(弥三郎はおどろいて家の内へかけ込み、そこに倒れているおいよを見て又おどろく。)
弥三郎 やあ、これはおれの女房だ、女房だ。
モウロ では、あなたは……。田原さんですか。
弥三郎 そうです、そうです。(慌てて呼び活ける。)これ、しっかりしろ。おいよ……おいよ……。ああ、やっぱり急所に中《あた》ったのか。
モウロ お気の毒なことでした。
弥三郎 (おいよの死骸をあらためる。)はて、どうも不思議だ。たしかに狼に見えたのだが……。
モウロ あなたの眼には狼と見えましたか。
弥三郎 あすこの[#「あすこの」は底本では「おすこの」]草原を駈けてゆく姿が、月あかりで確に狼にみえたので、直ぐに火蓋を切りましたが……。(不審そうに考える。)夜目遠目とはいいながら、わたしも多年の商売で、人と獣を見違える筈はない。まして今夜は月が明るいのに、どうしてこんな間違いを仕出来《しでか》したのか。自分でも夢のようで、何がなんだか判らない。
(弥三郎は疑
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