(正吉はあわてて表へ出てゆく。モウロも続いて出づ。)
正吉 (月あかりに透し見て叫ぶ。)おいよさんです、おいよさんです。
モウロ おお、おいよさん……。兎も角も内へ入れましょう。
(モウロと正吉はおいよをかき上げて、家の内に運び入れ、炉の前へ後ろ向きに横える。)
正吉 鉄砲で撃たれたのでしょうか。
(モウロはおいよを抱きあげて介抱する。)
モウロ あなた、どうしましたか。
正吉 (呼ぶ。)おいよさん……。おいよさん……。
(おいよは答えず。正吉は蝋燭をさし付けてモウロの顔をみれば、モウロは悲しげに頭を掉《ふ》りて、もういけないと云う。そのうちに正吉は地に落ちたるマリアの像を拾いあげて見せる。)
正吉 マリア様の像には血が付いています。おいよさんが持って来たのでしょうか。
(モウロは無言にて、その像を把ってながめている。下のかたより田原弥三郎は銃を持ちて出づ。)
弥三郎 何でもこっちへ来た筈だが……。はてな。(そこらを見まわしている。)
(正吉、こころ付いて窓より声をかける。)
正吉 もし、お前は何を探しているのです。
弥三郎 狼を撃って、確に手堪えがあったのだが……。急所を外れたので
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