あける。

          二

 第二幕の一つ家。外には月の光。
(モウロと正吉はテーブルに蝋燭を立て、向い合いて聖書を読んでいる。呼子の笛きこゆ。)
正吉 (顔をあげる。)あ、笛の声がきこえます。
モウロ (おなじく耳を傾ける。)笛の音……。あれは何ですか。
正吉 あれは呼子の笛です。(立ちあがる。)狩人達が狼のすがたを見付けて、その合図に笛を吹いているのかも知れません。
モウロ 狼……。おお、おいよさん……。(不安らしく立上る。)
正吉 おいよさんは確に自分の家《うち》へ帰ったのですが……。(これも不安らしく。)又抜け出したのでしょうか。
(笛の声また聞ゆ。)
正吉 あれ、あれ、笛の声がつづけて聞えます。鳥渡《ちょっと》行って見て来ましょう。
(正吉は表へ出ようとする時、小銃の音きこゆ。二人は顔をみあわせる。)
正吉 鉄砲の音がきこえました。
モウロ おお、鉄砲……。鉄砲の音……。
(二人はいよいよ不安を感じたるが如く、正吉は窓より表を窺う。下のかたの秋草をかき分けておいよ転び出で、窓の外に倒れる。)
正吉 あ、狼……。(窓より覗く。)いえ、人です、人です。人が倒れています。
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