い。
(五平と寅蔵は下のかたへ去る。)
お妙 (ひとり言。)ほんに姉さんはどうしたのか。
(お妙は砧を打ちつづけている。やがて向うよりおいよと正吉が足早に出づ。)
おいよ (わが家を指さして。)あれがわたくしの家でござります。
正吉 では、もうこれでお別れ申しましょう。
おいよ 御苦労でござりました。伴天連《バテレン》様にもどうぞ宜しく仰しゃって下さい。
正吉 かしこまりました。では、明日……。
おいよ はい。かならず伺います。
(正吉は会釈して、引返して去る。おいよは門口に来りて内をうかがい、木戸をあけて入る。)
お妙 おお、姉さん……。(砧をやめて立寄る。)あんまり帰りが遅いので、どうなされたかと案じていました。
おいよ 大方そうであろうと思って、随分急いで来たのですが、それでも遅くなって済みませんでした。して、兄さんは……。
お妙 さっき支度をして出られました。
おいよ さっき支度をして……。
お妙 五平さんと寅蔵さんも唯《た》った今、誘いに来ました。
おいよ 今夜も総出で狼狩か。それでは暁方まで帰られまい。
お妙 (やや気味悪るそうに、おいよの様子を窺いながら。)姉さん、お夕飯
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