ていましたが……。
寅蔵 源五郎は見えなかったかな。
お妙 (すこし躊躇して。)いいえ。
五平 今夜は弥三郎どんと相談して、手分けをして出ようかと思ったのだが、こうなったら思い思いに行くとしよう。
寅蔵 むむ。手柄は仕勝ちで、狼を見つけたが最後、ただ一発で仕留めるのだ。
五平 そう巧く行けばいいが、なにしろ相手が姿をみせないので困る。(懐より笛を出す。)誰でも狼を見つけた者は、この呼子を吹いて合図をすることになっているのだから、笛の音を聞いたら駈け集まるのだ。
寅蔵 では、その積りで出かけよう。
(二人は行きかかる。)
お妙 あ、もし、おまえさん達は、そこらで家《うち》の姉さんに逢いませんでしたか。
五平 姉さんは家にいないのか。
お妙 夕方に出たぎりで、いまだに帰って来ないので、どうしたのかと案じているのです。
寅蔵 それはおかしいな。まさかに狼に出逢ったのでもあるまいが……。
お妙 それでも何だか案じられてなりません。
五平 ここのおかみさんが夜歩きをするのは珍しいことだな。
寅蔵 なにしろそこらで逢ったならば、早く帰るように云いましょうよ。
お妙 お頼み申します。
二人 あい、あ
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