火縄銃を持ちて出で、おいよ等に行き逢いて透し見る。おいよは顔を隠すようにして、摺れちがいながら花道のかたへ行く。上のかたより猟師源五郎も火縄銃を持ち、おいよ等のあとを見送りながら出づ。弥三郎も花道をみかえりながら上のかたへ行きかかりて、思わず源五郎に突き当り、二人はおどろいて透し見る。)
弥三郎 おお、源五郎か。
(その声を聞きて、おいよは逃げるように向うへ走り去る。正吉は訳もわからずに、つづいて急ぎゆく。風の音。虫の声。)
[#地から1字上げ]――幕――
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第三幕


          一

 第二幕とおなじ夜。第一幕の田原弥三郎の家。よき所に行燈《あんどん》をとぼしてあり。庭の上のかたに筵《むしろ》を敷き、お妙は砧の盤にむかいて白布を打っている。薄月のひかり。砧の音。下のかたより猟師五平と寅蔵、いずれも火縄銃を持ちて出づ。
五平 弥三郎どんは内かな。
お妙 (みかえる。)おお、皆さん。兄さんはさっきもう出ました。
五平 ゆう飯を食ってから少し饒舌《しゃべ》っていたので遅くなったが、兄さんは今夜どっちの方角へ行かれたろうな。
お妙 今夜は夜通しで、村中を見廻ると云っ
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