次第に、狼を退治する気だな。
お妙 それだから迂闊なことは云われず……。ああ、どうしたら好かろうか。
源五郎 今も聴いていれば、村では切支丹の伴天連をたのんで、祈祷をして貰うことになったそうだが、異国の坊主なぞに何が出来るものか。おれは不断から切支丹は大嫌いだ。兄さんのいう通り、こうなったら意地づくでも、おれたちの手で退治しなければならない。それに付けてもさっきの一件を、よく兄さんに話してくれ。
お妙 どうしても話さなければなるまいか。
源五郎 (じれる。)お前はおれがこれ程に云うのを肯いてくれないのか。
お妙 (慌てて。)いえ、そう云うわけではないけれど……。
源五郎 そんなら早く話してくれ。いいか。
お妙 (仕方無しに。)あい。
(芦のあいだより昭全あわただしく飛んで出づ。)
昭全 それ、何か来た……。何か来た……。(源五郎のうしろへ隠れる。)
源五郎 え。何か来た……。
(源五郎はお妙を囲いながら、下のかたを屹《きっ》と透し見る。)
源五郎 なんにも居ないではないか。こいつめ、おれ達を嚇《おど》かしたな。
昭全 いいえ、どこかで芦の葉のがさがさ[#「がさがさ」に傍点]云う音がきこ
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